7月30日(月)

今日は悲しいことに行きつけのラーメン屋さんが潰れた。

悲しみ余って書いた坦々麺ポエムを日記代わりとする。

 

ちなみにタイトルはサザンオールスターズの"可愛いミーナ"(なかなか素敵な夏の失恋ソングなのだ)の歌詞を改変した。

 

【我が麗しのギョーザ 帰らぬ夏の思い出】
 
恋というのは別れがつきものだ。
 
誰もが知ってることだけど、あまりにあっけない失恋をすると
ある人は憤慨し、ある人は取り乱し、またある人は寝込む。
 
急な別れは何も人に限った話ではない。
 
健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも
いつも近くにあった馴染みのラーメン屋さんが潰れる時、
人は"失麺"に心を痛めるのだ。
 
千駄木の団子坂を北に上がったところに、ひときわ目立つ毛沢東の看板がかかった怪しい中華料理屋「毛家麺店」がある。
初めてその店の前を通った時、私は本郷に来たばかりのいたいけな学部2年生だった(と思う)。
真っ赤な外壁のその店に「ちょっと勘弁、、」と思っていたのにいつの間にか足しげく通うお店になっていた。(きっかけは忘れた)
そこの坦々麺は、練りゴマと中華料理特有の香辛料が効いた少し甘めのスープに細い縮れ麺がよく合って、さらに注文が入るたびにおばちゃんが包んでくれる水餃子はつるりプリプリで坦々麺と一緒に食べるとさらに美味しい。
一人でふらりと入って、おじさんとおばさんの中国語での軽妙なやりとりを聞くのが好きだったし、好きな人とつつく餃子は最高に美味しかった。
                             
そんな「毛家麺店」が閉店すると聞いたのは今日こと。
その筋によると、どうやら昨日急遽閉店が決まったとのことだ。
ショックだが動揺している場合ではない、どうかうそであってほしい、そう願いながら駆けつけた「毛家麺店」は人が並んでる様子もなく、いつも通りの怪しさを放っていた。
                            
「やっぱガセなんじゃない?」そんな期待で扉をあけると、
いつも笑顔で迎えてくれるおじさんは寂しそうで
常連さんとのやりとりに時折涙を潤ませるおばさんを見て現実を悟った。
 
チャーハンか餃子で悩んだ挙句、坦々麺と半チャーハンを頼む。                           
 
「恋の終わりはいつも人を優しくする」と一風堂、いや風味堂の3人のメンズが歌うように
最後の一杯を飲んだ私は切なさと寂しさと押し寄せる旨味で胸がいっぱいになった。
 
なぜ店を閉じるのか、なぜ今日なのか、この先どうするのか。
聞きたいことはいっぱいあったけれど、手短にここのお店が大好きだったこと、今までの感謝を述べた。
「ダメよあなたそんなこと言っちゃ、この人また泣いちゃうから」
私の横にいたご婦人がそう言うと、おばちゃんはまた少し泣いて、おじさんは困ったように笑った。            
 
店を後にして、昼間の熱が引きつつある不忍通りを、自転車を漕ぎながら思った。                  
 
「ああ、やっぱり水餃子も頼めばよかったなぁ。」